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多核テンプレート合成:金属を使って特定の環サイズの有機環状化合物を合成する

一分子中に多数の配位部位をもつ環状の有機化合物「大環状多核化配位子」は,複数の金属を定められた位置に適切に配置するのに適した化合物であり,金属間相互作用の研究などにおいて重要です。 しかし,一般に大環状構造の化合物を合成する際の環化反応は,環化の最終ステップの反応が分子間反応(ポリマー化)と競争するため,しばしば低収率になります。 超分子化学における大環状ホスト化合物の合成反応では,ゲストとなる化学種(金属イオン等)を共存させて,そのゲストに巻きつかせるようにして環化反応を行うことで,環化の効率が上がること(テンプレート効果)が知られています。 当研究室では,この考え方を大環状多核化配位子の合成に適用し,複数の金属イオンを同時に「テンプレート」として作用させることによる効率的な大環状多核化配位子の合成について研究を行ってきました。

複数の金属イオンをテンプレートとする大環状多核化配位子の選択的合成のコンセプト

この考え方を,三つのsalen型配位部位から成る大環状多核化配位子の合成に適用してみました。 当研究室では,salen型配位子のイミン窒素間をつなぐ基としてR = o-C6H4を導入した化合物(環状saloph三量体)が,テンプレートなしでも非常に高収率(91%)で得られることを見出しています。 しかし,R = OCH2CH2Oの化合物(環状salamo三量体)の合成は非常に低収率(15%以下)となり,各種サイズの環状・直鎖のオリゴマーが得られてきます。

テンプレートなしでの環状多核化配位子の合成。置換基によっては非常に低収率となる。

この合成において,得られる環状配位子と相性の良い二種類の金属(Zn2+, La3+)を共存させて反応を行ったところ,環状三量体の収率は94%にまで向上しました。 環の構成成分となる有機物の配置が金属イオンによって環化に都合の良い形に固定されたために,劇的な収率向上(テンプレート効果)がみられたと考えられます。

Zn2+およびLa3+イオンをテンプレートに用いた大環状多核化配位子の選択的合成

このような,複数の異なる金属イオンを同時にテンプレートとして作用させる「多核テンプレート」という概念は,イミンやオキシムなどのC=N結合生成だけでなく, Grubbs触媒を用いたC=C結合生成にも適用でき,各種大環状多核化配位子の合成に成功しました。


[References]
“Core/Shell Oligometallic Template Synthesis of Macrocyclic Hexaoxime” Akine, S.; Sunaga, S.; Taniguchi, T.; Miyazaki, H.; Nabeshima, T. Inorg. Chem. 2007, 46, 2959-2961.
doi:10.1021/ic062327s
“Oligometallic Template Strategy for Ring-Closing Olefin Metathesis: Highly Cis- and Trans-Selective Synthesis of a 32-Membered Macrocyclic Tetraoxime” Akine, S.; Kagiyama, S.; Nabeshima, T. Inorg. Chem. 2007, 46, 9525-9527.
doi:10.1021/ic701585x