RESEARCH TOPICS
らせん構造を自在に動かす:分子の「てこ」で反転させる
らせん構造は,「巻き」に由来するキラリティー(ヘリシティー:右巻き/左巻き)を持ちます。 有機骨格に変換を施すことなくヘリシティーのみを逆転させる構造変換を行えば,キラル機能を可逆的に反転できるスイッチング分子として効果的に働くと期待されます。 これまでに,有機分子・錯体・ポリマーなどのらせん構造において,刺激に応答してヘリシティーが逆転する例が少数ながら報告されてはいますが,ヘリシティーを意図通りに逆転させるのは,実はそう簡単ではありません。 当研究室では,「こうすれば確実にヘリシティー逆転を起こすことができる」という分子の仕掛け(有機分子骨格に基づいた設計性のあるらせん反転システム)の開発を進めてきました。
そのようなアイデアの一つとして,四置換エタン誘導体のgauche/anti相互変換に基づく分子の「てこ」のような仕掛けにより,遠隔からヘリシティー反転を行う方法を開発しました。
らせん型錯体の骨格の一つのsalen部位に含まれるCH2CH2部位に,「てこ」のハンドルとなるような置換基を導入します。
このハンドル間の距離を縮めれば,そのsalen部位のN-C-C-Nねじれ角が+60°となり,伸ばせば-60°となりますので,分子骨格のねじれの符号を逆転させることができます。
このねじれ角の符号の逆転が,らせん型錯体全体のヘリシティーの逆転を引き起こすという設計です。
具体的には,ハンドル部分にクラウンエーテルを導入し,分子認識によりらせん反転が起こる系の開発を行いました。 実際に,鎖長の短いジアンモニウム塩を相互作用させると,設計通り右巻きが主となり,長いジアンモニウム塩を作用させると左巻きとなることがわかりました。 したがってこの錯体は,分子機械的な機構「てこ機構」を組み込んだ初めてのらせん反転システムとして働いたと同時に,長さの情報をヘリシティー情報に変換できる初めての例となりました。
[Reference]
“A Molecular Leverage for Helicity Control and Helix Inversion”
Akine, S.; Hotate, S.; Nabeshima, T.
J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 13868-13871.
doi:10.1021/ja205570z