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分子の形を変えてイオンを捕まえやすくする

分子が特定の分子やイオンを捕まえる現象[1]は,酵素が特異的に基質を捕まえる現象のように,分子機能の発現の第一ステップとして重要です。 分子やイオンを捕まえることによって,さらに別の分子やイオンを捕まえることができるようになれば,化学情報の連鎖的な伝達が可能な有用なシステムになる可能性があります[2]。 ここでは,遷移金属イオンを加えることで直鎖状構造がC字型の構造に変化して,イオンを捕まえやすくなるようなシステムの構築を目指しました。

ビス(salen)型配位子を使った協同的イオン認識のコンセプト

二つのsalen部位を連結した配位子を亜鉛(II)と錯形成させると,配位子部分は予想通りの構造変化を起こし,C字型の構造となりました。 しかし,二つのsalen部位だけでなく中央の認識場にも亜鉛(II)が取り込まれ,三核錯体となってしまいました。 当初,この余分な亜鉛(II)のためにこれ以上のゲスト認識は不可能と思われましたが,実際には認識場に取り込まれた亜鉛と交換する形で,希土類・アルカリ土類金属ゲストを認識することがわかりました。 この三核錯体は金属交換によるゲスト認識を実現した初めてのホストであり,そのCa2+/Mg2+選択性は,生体内Ca2+プローブとして汎用されるBAPTA誘導体に匹敵する105以上に達することが明らかとなりました。

直鎖状構造からC字型構造への変換と金属交換によるイオン認識
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金属交換を利用したイオン認識を初めて実現
金属交換前の亜鉛三核錯体の結晶構造。 中央のZn2+はO6サイトのサイズにぴったりなわけではない。
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金属交換後の亜鉛-カルシウム錯体結晶構造。 中央のCa2+はO6サイトにぴったりフィットしている。
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注:
[1] 分子認識(イオン認識)という。捕まえる分子を「ホスト」,捕まえられる分子やイオンを「ゲスト」と呼ぶ。
[2] 一つ目のゲスト認識により形が変化し,それによって二つ目以降のゲストが入りやすくなるホストを「アロステリックホスト」という。


[References]
“Novel Synthetic Approach to Trinuclear 3d-4f Complexes: Specific Exchange of the Central Metal of a Trinuclear Zinc(II) Complex of a Tetraoxime Ligand with a Lanthanide(III) Ion” Akine, S.; Taniguchi, T.; Nabeshima, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 4670-4673.
doi:10.1002/anie.200290011
“Ca2+- and Ba2+-Selective Receptors Based on Site-Selective Transmetalation of Multinuclear Polyoxime-Zinc(II) Complexes” Akine, S.; Taniguchi, T.; Saiki, T.; Nabeshima, T. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 540-541.
doi:10.1021/ja046790k
“Helical Metallohost-Guest Complexes via Site-Selective Transmetalation of Homotrinuclear Complexes” Akine, S.; Taniguchi, T.; Nabeshima, T. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 15765-15774.
doi:10.1021/ja0646702