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らせん構造を自在に動かす:多段階のらせん反転

らせん構造のもつヘリシティー(右巻き・左巻き)を逆転させる変換は,キラル機能を可逆的に反転させるスイッチング機構として興味深く,当研究室で開発した例を含めてこれまでにさまざまな機構が開発されてきました。 これらの系は基本的には「右巻き⇔左巻き」の二状態の間での変換です。 もし右巻き・左巻きそれぞれに複数の状態があり,それらの間を異なる刺激を使って「右→左→右→左...」のように段階的に変換できれば,複数の異なるキラル機能を変換できる新しい多重スイッチング機構となることが期待されます。

複数のらせん構造の間での多段階反転は可能か?

しかし実は,多段階の変換を行うのはそれほど容易ではありません。 これはらせん反転に限った話ではなく,構造変換に一般的に言える話で,それぞれの変換にそれぞれの刺激応答部位が必要になるためです。 すなわち,それぞれの変換について刺激Aに応答する部位,Bに応答する部位,...のように刺激応答部位を多数組み込むことになり,分子は非常に複雑なものとなってしまいます。

金属錯体は,その意味で非常に有利です。 配位子との相互作用の強さの序列に従って,弱い順に金属イオンを入れていけば,使う金属の数だけの変換反応を実現できます。 ここでは,金属イオンの段階的な添加によって,らせん構造のヘリシティーが多段階で反転する系の開発を行うこととしました。

複数の刺激に応答するらせん構造を作ろうとしても,分子が複雑になりすぎて合成は現実的ではない。

この目的には,不斉置換基として(S)-2-ヒドロキシプロピル基をもつオリゴオキシム配位子が有効に働いてくれました。 この配位子に亜鉛(II)イオンを3当量加えると,右巻きらせん構造をもつ三核錯体となり,さらに2当量加えると逆に左巻きのらせん構造をもつ五核錯体となりました。 ここにバリウムイオンを加えると,二つの亜鉛(II)イオンが追い出されて,右巻きのZn3Ba四核錯体となり,ここにランタン(III)イオンを加えると,今度はバリウムイオンが追い出されて左巻きのZn3La四核錯体となりました。

金属イオンの入りやすさの序列を利用して,異なる刺激による多段階ヘリシティー反転を初めて実現。

これまでの類似の配位子の研究から,酸素原子に囲まれた中央のサイトでの金属イオン親和性は Zn2+ < Ba2+ < La3+であることがわかっていましたが, この序列を利用することで,初めてヘリシティー反転を異なる刺激を使って多段階で起こすことに成功しました。

金属交換反応を利用した多段階らせん反転  
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[Reference]
“Stepwise Helicity Inversions by Multisequential Metal Exchange” Akine, S.; Sairenji, S.; Taniguchi, T.; Nabeshima, T. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 12948-12951.
doi:10.1021/ja405979v