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活性酸素種を含む反応活性金属錯体の創成

空気中に約20%ある酸素分子は,呼吸や燃焼など我々の生活に不可欠です。 好気性生物は酸素分子の還元過程で発生するエネルギ-を利用して生命を保っています。 また生体内では多くの化学反応が酸素を必要としています。 一方,植物は光合成で水を酸化して酸素分子を作り出しています。 このように自然界では下の図のように酸素分子と水との循環が行われています。 この循環過程では金属イオンを含む酵素や蛋白質が重要な役割を果たしています。

酸素分子の反応は細胞内で行われており,そこまで酸素分子を運ぶ必要があります。 そのために酸素運搬体があり,重金属イオンがその役割を担っています。 この酸素運搬体は酸素分子が多いところでは酸素分子と結合し,少ないところでは可逆的に放出する機能を持っています。 脊椎動物ではヘモグロビン(Hb)が酸素運搬の役割を果たしています。 Hbは一個の鉄イオンが一個の酸素分子を結合します。 一方,甲殻類や軟体動物では二つの銅イオンを含むヘモシアニン(Hc)が,また海産性無脊椎動物であるホシムシなどでは 二つの鉄イオンを含むヘムエリスリン(Hr)がその役割を担っており,それぞれ二個の金属イオンが一個の酸素分子を 結合します。

また,上で述べたヘモシアニンやヘムエリスリンと似ていますが,二つの金属イオンが酸素分子を捕まえて, これをさらに「活性化」して有機物を酸化する酵素が数多く存在しています。 例えば,化学的に最も酸化しにくい物質であるメタンを,いとも簡単にメタノ-ルに酸化するメタンモノオキシゲナ-ゼと呼ばれる酵素があります。 これには二種類が見いだされています。一つは二個の鉄イオンを含んでおり,もう一つは,複数個の銅イオンを持っています。 これらは,どのような仕組みでメタンをメタノ-ルにいともたやすく酸化するのか,まだわかっていません。 さらに,光合成ではマンガン化合物が水を酸化して我々に必要な酸素分子を作り出しています。 この仕組みも不明です。

このような反応を自由自在に制御できれば,クリ-ンでエネルギ-効率がよく,かつ天然資源を無駄使いしない夢の人工酵素を作り出すことができるでしょう。 錯体化学研究室では,そのための自然界の根本原理を理解する化学を学び,新しい化学を創りだすことを目的としています。

目で見る研究例

★ 鉄および銅錯体による酸素-酸素結合の可逆的開裂と再生
★ 酸素活性化二核鉄酵素のモデル錯体
★ 酸素活性種を含む金属錯体による酸化反応
★ 酸素運搬体モデル-ヘムエリスリン(二核鉄酸素錯体)の機能モデル

★ 鉄(III)パ-オキソ錯体の酸素-酸素結合の可逆的開裂と再生

J. Am. Chem. Soc., 127, 4550-4551 (2005), Angew. Chem. Int. Ed., 41, 1202-1205 (2002).

★銅錯体による酸素分子の可逆的4電子酸化還元

Inorg. Chem., 2003, 42, 8534-8544, J. Am. Chem. Soc., 122, 2124-2125 (2000).

★ 酸素活性化二核鉄酵素のモデル錯体

J. Am. Chem. Soc., 127, 826-827 (2005).

★ ヒドロペルオキソ架橋二核銅(II)錯体の反応性

J. Am. Chem. Soc., 127, 5212-5223 (2005).

★ 高原子価ニッケル-オキソ錯体による酸化反応

Angew. Chem. Int. Ed., 43, 3300-3303 (2004), J. Am. Chem. Soc., 122, 254-262 (2000).

★酸素運搬体の機能モデル-ヘムエリスリン(二核鉄錯体)のモデル

J. Am. Chem. Soc., 118, 701-702 (1996), J. Am. Chem. Soc., 117, 11220-11229 (1995).