研究内容
液液界面における電荷移動反応機構の解明
二種の混じり合わない溶液の液液界面は、二次元反応場として分離や検出、各種合成反応に応用されているほか、生体膜のモデル反応場としても研究が進められている。液液界面におけるイオン移動や吸着反応の機構を明らかにすることは、生体内物質輸送・酵素反応の素過程を議論する上で重要なだけでなく、光エネルギー変換系や分子デバイスの構築においても非常に重要である。
我々は、界面反応の研究に広く用いられている電気化学的手法と分光学的手法を組み合わせ、ポルフィリン、ローダミン誘導体をはじめとする機能性色素の界面反応挙動の解明と界面化学種のキャラクタリゼーションを行っている。我々が用いている電位変調蛍光分光法(Potential Modulated Fluorescence Spectroscopy)は、分極された液液界面に交流電位を印加し、電位に依存して変化する蛍光強度の交流成分を解析することで、イオン移動や吸着過程を測定する手法である。交流電位変調を用いることによって、液液界面の分光測定で常に問題となってきたバルク相反応の寄与を抑えることができるほか、界面電荷移動を伴わない吸着過程に対して非常に有効である。現在、多分岐高分子化合物(デンドリマー)や各種生体関連物質の界面反応挙動の解明を行い、電気化学的分離反応系への応用を進めている。
多分岐高分子によるイオン性化学種の液液分配・界面反応制御
化学種の相間分配特性は分子に含まれる官能基の種類や電荷に依存して変化する。一方、デンドリマーに代表される多分岐高分子は、ゲスト分子を分子内空孔に取り込んだり、末端官能基で相互作用することにより、イオン会合体を形成する。
我々は多分岐高分子を分子キャリアとして利用することにより、化学種の液液分配挙動や界面・膜表面における反応機構の制御への応用を進めている。これまでに様々な官能基や構造物性の多分岐高分子について、機能性色素やイオン性薬剤、生体関連物質との相互作用と界面反応機構への影響を明らかにしてきた。とくに電位やpHなどの外部刺激に応答する薬剤の膜透過過程の動的制御は、高機能ドラッグデリバリーシステム(DDS)への発展が期待される。
楕円率計測型円二色性測定装置の開発
タンパク質や薬剤などのキラルな分子は円二色性(CD)と呼ばれる左右の円偏光に対して吸光度が異なる性質を持っている。CD測定はキラルな分子の分析法として広く用いられているが、楕円率を計測することで従来よりも短時間でCDを測定することに成功した。この測定により、数十秒単位で進行するキラルな薬剤と金属イオンとの錯生成反応を解析することに成功しており、現在はタンパク質の構造変化が解析可能である紫外領域での測定を可能にするべく装置の拡張を進めている。
生体膜透過性タンパク質キャリアの創製と膜反応・包接反応の制御
薬効を最大限に引き出すためのドラッグデリバリーシステム(DDS)では、包接能を持った物質が薬剤キャリアとして注目されている。タンパク質は、生体適合性と標的指向性を有するキャリアとしての可能性を秘めているが、一般的に生体膜を透過しない。我々は、生体膜透過性ペプチドとタンパク質を組み合わせた、膜透過性を飛躍的に向上させたキャリアの創製を目指すとともに、その分子包接特性や生体膜透過機構の解明を行い、タンパク質キャリアの機能的なDDSへの応用を進めている。