金沢大学理工学域物質科学類科学コース 理論化学研究室

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物理化学的手法を用いた特異的物性の研究

 マクロな物性がどのようにして発現するのかを理解するためには、ダイナミクスを伴ったミクロの構造の情報が必要となります。このミクロの構造解析の 立場から、特異的物性のメカニズムを解明することを目指しています。研究対象は、相転移を起こす有機・無機結晶、超イオン導電体,ソフトマテリアル(タン パク質結晶, 液晶,柔粘性結晶,ガラス,高分子ブロック重合体など)です。

研究例

サーモトロピック液晶高分子の相転移

 PSHQnはフレキシブルなアルキル鎖と硬いコアー部分からなっており、nはアルキル鎖の炭素数を表します。これはPSHQnの相図で、室温相から温度を上げていくと液晶相になり、更に高温で液体になります。このPSHQnは、比較的利用しやすい温度領域で液晶になり、液晶相の温度領域が広いことが特徴です。また、注目されるのはnが偶数のPSHQnのほうが奇数のPSHQnよりも相転移温度が高くなっていることです。この現象は高分子鎖間のパッキングと関係していると考えられます。高分子鎖間のパッキングは固体NMRによって分子ダイナミクスを調べれば明らかになります。13C NMRを用いて高分子の運動性を調べたところ、アルキル鎖の運動と高分子鎖全体の運動においてnが偶数のPSHQnの活性化エネルギーが奇数のPSHQnの活性化エネルギーより高くなっており、アルキル鎖が偶数のときは高分子間のパッキングが密になって分子が動きにくいので転移温度が高くなることがわかりました。

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水素結合ネットワークを有する分子結晶の相転移

 パラクロロベンジルアルコールおよびパラブロモベンジルアルコールはO-H-O一次元水素結合ネットワークを形成しています。これらの物質は温度を下げ るとTc1とTc2で相転移を起こし、高温相、中間相、低温相の3つの相が存在します。これらの物質の水素結合ネットワークの構造やダイナミクスが相転移 によってどのように変化するかに興味をもち、2H NMR、中性子線回折,分子軌道計算を用いて研究を行ってきました。本研究により、高温相では-OHの水素が下向きなのに対し低温相・中間相では水素の向 きが上向きになっており、相転移によって水素結合の方向が反転することがわかりました。また、水素結合ネットワークの局所構造およびダイナミクスを明らか にすることができました。

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超イオン導電体Ag1-xCuxIの相転移とイオンダイナミクス

 超イオン導電体は、イオン伝導によって半導体クラスの電気伝導度を示す物質で、ヨウ化銀やヨウ化銅は高温で超イオン導電体になります。本研究ではヨウ化 銀に銅を加えたときにイオン伝導にどのような影響を与えるか、また超イオン伝導相への転移におけるローカルな環境の変化を、63Cu NMRのT1およびT1よりも3桁ほど遅い運動を見ることができるTを用いて調べました。γ相では銅イオン濃度が高くなるにつれて、銅イオンのジャンプにおける活性化エネルギーが高くなるとともに、活性化エネルギーに分布が生じていることがわかりました。

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タンパク質結晶の水和水のダイナミクス

 タンパク質結晶は,X線や中性子線によるタンパク質の立体構造決定という立場から重要視されてきましたが,構造が解析されたタンパク質結晶においても, その機能性が注目されるようになってきています。タンパク質結晶の機能性は結晶構造と密接に関係していますが、その結晶構造は結晶中に含まれる水分子に大 きく影響します。そこで、当研究室で開発してきた高精度の固体重水素NMRのシミュレーション解析法を用いて、水和水のダイナミクスの温度変化を詳細に調 べ,水和水のダイナミクスが水和水の量や温度や結晶成長の方法でどのように変化するかを調べています。得られた結果をもとに、水和水の量やダイナミクスを 制御できれば、結晶構造の制御に繋がるのではないかと考えています。

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