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| 研 究 内 容 |
| 「新しい有機合成反応の開発」 |
| 金沢大学大学院自然科学研究科 猪股勝彦 |
| 概 要 |
新規な活性種に着目した新しい有機合成反応の開発を基盤として,有用な天然および非天然有機化合物の合成に関する研究を展開してきた。すなわち,現在,世界的に広く用いられている活性中間体としてのボロンエノレートの反応を発見するとともに,この研究過程で得られたフラン化合物について,当時,β-置換フラン化合物の合成が困難であったことから,有機硫黄化合物の特性を活用した天然フラン化合物の一般合成法を開発した。さらにこのフラン骨格形成の際の活性中間体であるアリルスルホンに着目し,パラジウム触媒を用いたアリル型スルホンの合成と脱スルホン化反応,高効率・高選択的炭素骨格構築法を開発し,種々のテルペン類の合成に適用して好結果を得た。また,この研究中に見出した立体障害の概念に反する新規な現象である「シン効果」の本質解明を目指して系統的な研究を展開し,多くの実験事実に基づいて,6π電子系のホモ芳香族性および
σ→π*相互作用が「シン効果」の主な原因であることを明らかにした。
最近は,上述した新有機合成反応開発の諸成果を基盤として,とくに天然フラン化合物の合成に関する研究成果をピロール化合物の化学,とりわけ開環状テトラピロール化合物の一種であるビリン系発色団の合成研究へと発展させ,植物の光形態形成を制御する物質として世界的に注目されている光受容色素タンパク質フィトクロムの発色団であるフィトクロモビリン(PΦB)ならびに関連発色団の全合成を世界で初めて達成した。さらに生物学分野の研究者と共同研究を行い,化学合成した発色団と組み換え遺伝子操作で調製したアポタンパク質の試験管内再構成による人工フィトクロムの構築を実現し,フィトクロム中における発色団結合サイト周辺の化学的環境を解明した。また,発色団を欠損する変異株を用いた合成発色団の生体内再構成実験により,PΦBの側鎖ビニル基の特異的な作用など,フィトクロム研究における有機合成化学的アプローチの有効性を示した。一方,最近の有機合成化学の大きな課題の一つである不斉合成の分野においても,両鏡像体ともに入手容易な酒石酸ジエステルを用いる複核キラル反応場の創生を基本概念とした高効率・高選択的な不斉合成反応の開発を行い,好結果を得た。 |
| (1)活性中間体としてのボロンエノレートの発見と反応 |
| (2)天然フラン化合物の一般合成法の開発 |
| (3)パラジウム触媒および有機硫黄化合物を用いる新合成反応の開発 |
| (4)ビニル型およびアリル型スルホンの位置および立体選択的合成と「シン効果」の本質解明 |
(5)フィトクロムの構造と機能解明を目指したビリン系発色団の全合成
−人工フィトクロムの試験管内および生体内構築とその機能解析− |
| (6)酒石酸ジエステルを不斉源として活用する複核キラル反応場の創生 |
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以上,新規な活性種に着目しながら,新しい有機合成反応を開発し,有用な天然および非天然有機化合物の合成ならびに新概念の創出等の研究を展開するとともに,これらの研究成果を基盤として,従来の有機合成化学の域を超えた,学際的で総合的な有機合成化学研究を展開してきた。なかでも植物の光形態形成を制御している光受容色素タンパク質フィトクロムの発色団であるフィトクロモビリンおよび関連発色団の全合成と,化学合成した発色団とアポタンパク質との試験管内および生体内での再構成実験による人工フィトクロムの構造と機能に関する研究は,生命現象解明における有機合成化学的アプローチの有効性を示したものであるといえる。
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